原書のタイトルは『THE BEST OF PHILIP K. DICK』。デビュー作からかなり後年の作品までを網羅した、ディック氏のベスト盤的短編集ということらしい。各作品の初出年などが記載されていないので、詳しいことは判らないが。
これがやはり、かなり面白かった。文章も内容も概ねスッキリしていて解りやすいし、現在の感覚で読むとややありきたりな印象を受ける作品もあったりはするが、全体を通して感じられる「適当にシニカル」な雰囲気が、私の好みにピッタリ来る。先日読んだ『マイノリティ・リポート』と合わせて、私が最近まで持っていた「ディック作品は読んでいて疲れる」という先入観はほぼ完全に払拭された。この先入観の原因は、恐らく中学生の時に『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』をピンと来ないまま読んでしまったことだと思うのだが、結果的にそのせいで最近までディック作品に手を出しにくくなっていたわけで、私にとってはかなりアンラッキーなことだったのかもしれない。
ともあれ、ディック作品が私の好みに合うことを再発見出来たからには、少なくとも未読の作品を一通り読んでみたいという気分になっている。この本は日本での出版に際して「ディック傑作集1」とされていて、2と3も既に出ているようだ。ベスト盤にパート2や3があるのも変な話ではあるが、音楽業界においてもそれは全然珍しくない話だし、読者としては沢山の作品を読めるのであれば文句があろうはずもない。
…というわけで、次はとりあえず「ベスト盤のパート2」を買ってみることにしようか。