【本の感想】

『まだ人間じゃない』

 ディック傑作集4。『ゴールデン・マン』の続きだ。
 『ゴールデン・マン』に収められている作品群よりも、こちらは更にバラエティに富んでいる。個人的には、こちらの方が好みだ。とくに気に入ったのは、「最後の支配者」と「まだ人間じゃない」。「フヌールとの戦い」のとぼけた味も好きだが、ギャグとしては笑えなかったので作品の評価は今一つ。
 「まだ人間じゃない」の着想と視点は凄いと思う。これはちょっと衝撃的ですらある。しかし、『ゴールデン・マン』に収録されている「ヤンシーにならえ」と同じように、物語の料理の仕方というか、ストーリーの展開とラストへのまとめがどうも鋭さに欠けているように思える。勝手な言い草であることを承知で、どうしても「惜しい」と感じてしまう。

 この本(と『ゴールデン・マン』)には、ディック氏についての情報が豊富に織り込まれている。冒頭(つまり『ゴールデン・マン』の冒頭)には編集者の序文に加えてディック氏自身のまえがきがあり、各作品にはディック氏のメモが付き、巻末にはディック氏自身のあとがきがあり、更には木村重樹氏(って誰だか私は知らないのだが)による解説まで付いている。私は作者の生い立ちだとか作品が書かれた状況だとか、本が編集された経緯だとかには大して興味がないのであまり有り難みがないが、そういう読み方が好きな人にはかなり嬉しいと思う。私としても大して興味がないというだけで、不必要だからない方がいいと感じているわけではないし、こういうことにもそれなりに価値があるのかもしれないとは思う。

2000/09/19
『まだ人間じゃない』
フィリップ・K・ディック 著
浅倉久志/他 訳
ハヤカワ文庫SF969(テ1-12)

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