【映画の感想】

『もののけ姫』
★★★☆

 これは、近頃流行りの安易な自然保護思想に対する痛烈な批判を主軸にした映画…だと思って観てみたら、今一つその感触は薄かった。確かに「単純な思い込みではダメだ。もっと深く考えなくては。」といったメッセージは充分に感じられるのだが、それがあまり「痛烈に」は伝わって来ない。全ての人間にとってかなり「痛い」テーマを扱っている作品なのに、観ていてあまり「痛み」を感じられない。
 大雑把な図式は『風の谷のナウシカ』とあまり変わらないのだが、今回は描き方がまるで逆になっているのだと思う。『ナウシカ』では主人公ナウシカの生きざまをメインに描きながらその背景に「自然と人間の対立」の図式があるという感じだったが、『もののけ姫』では「自然と人間の戦い」がメインで、サンもアシタカもその舞台で生きるキャラクターの一人に過ぎないという気がする。この作品で制作者が(内部の事情は知らないので「宮崎監督が」とは言えないが)描きたかったのはサンやアシタカではなく、それらのキャラクターが生きる舞台としての日本、そしてそこで織り成される「自然対人間」という大きなジレンマを含んだ、「世界そのもの」だったのじゃないかと思う。そして、そんな大それたものを描ききるには2時間あまりの映画枠ではいかにも短すぎ、説明不足や消化不良が残ってしまったのじゃないかと。

[★ ネタバレ部分を呼び出す ★]


 ともあれ、これだけの作品がなかなかあるものじゃないことは確かだと思う。私がこれだけあれこれと言いたくなる作品もなかなかあるものじゃないし。(笑)
 日本人なら観ておかなくてはいけない作品、と言ってしまってもいいんじゃないかとは思う。
 一説によると、宮崎駿氏が監督する映画はこれで最後だという。真偽の程は知らないが、もし本当なら非常に残念なことだ。宮崎監督の有終の美を飾る作品としては、『もののけ姫』には個人的に大いに不満が残る。宮崎氏には、もっともっと作品を生み出して欲しい。実際的な都合や事情は知ったことじゃない、一人のわがままな観客として、そう思わずにはいられない。

1997/07/19
『もののけ姫』
原作・脚本・監督:宮崎駿
音楽:久石譲
徳間書店/日本テレビ放送網/電通/スタジオジブリ提携作品
特別協賛:日本生命
配給:東宝

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