ダン!
大きな音が教室中に響いた。それは、汚れて灰色になった白の運動靴が、パイプ机の上に踏み出された音だった。
教師はチョークを持つ手を止め、振り返った。
一人の生徒が立ち上がっていた。
「ふざけるんじゃねぇ!こんなつまらねえ授業聞いてられっかよ!おれたちゃ、伊達や粋狂で学生やってんじゃねぇんだ!」
「そうだ!そうだ!」
まわりの生徒達も次々と立ち上がる。
「やっちまえ!」
「おぉっ!」
最初の生徒の号令一下、全員が教師に向かって突進した。
その途端、先頭の二人が飛んできた教卓にぶちあたって倒れた。
生徒達が思わず立ち止まる。
その前方、教壇の上で、教師は髪を振り乱し、ニヤリと口もとをひきつらせて立っていた。
「フッ・・・。なめんなよ。こちとら教師生活13年だぜ。伊達や粋狂でできるこっちゃねぇぜ!かかってきやがれ青二才!!」
「うおぉぉぉっ!!!」
乱闘が始まった。
+ + + + +
ガシャ!バホーン!
国会議事堂を、火炎瓶がおそった。
炎をとりかこむ男達。いや、女もいるかもしれない。それぞれ顔を隠し、ヘルメットを被り、手に手に得物を持っている。
「ざまぁみろ!伊達や粋狂の過激派じゃないぜ!行くぞみんな!」
「おっしゃあ!」
おびただしい数の暴徒達が、まわりを破壊しつつ突き進む。
だが、ズラリと並んだジェラルミンの楯が、統制のとれた行動で、それを遮った。
「伊達や粋狂で公務員やってられっかぁ!」
「オオッ!」
人混み同士が、乱闘を始めた。
+ + + + +
「そうそう、その通り!伊達や粋狂で自衛隊がいる訳じゃない!」
白髪の男が、日本の国旗を振り回している。
「伊達や粋狂で最近まで軍国主義やってた訳でもない!」
「そーだ、そーだぁ!」
地味な背広を着た老人たちが、口々に叫ぶ。各々のえりには金のバッヂが光っている。
「鬼畜米英、ぶっつぶせーっ!」
自衛隊に、出動命令が下された。
+ + + + +
爆音の中で、浮かれている男がいた。
「ヒャッホーッ!伊達や粋狂で戦闘機のパイロットなんざやってらんないよ!」
「ひゃはははは!そーそー!」
他の機のパイロット達も、同意見の様だ。
「おっとぉ!目標発見!行くぜえっ!」
「おぉっ!」
「カミカゼーッ!」
彼らは、洋上に見える米軍の駆逐艦に突っ込んで行き、爆発四散した。
駆逐艦は炎上し、ゆっくりと沈没していく。
突然、そのすぐ横の海面が盛り上がり、黒い巨体が姿を現わした。
浮上して来た原子力潜水艦の中では、帽子を被り、頬とあごに髭をたくわえた逞しい中年男がドラ声をはりあげている。
「ガァッハッハァ!なめんなよジャップ!こちとら、伊達や粋狂で核ミサイル積んでる訳じゃねぇんだぜ!おらぁ、やったれやったれぃ!」
「イェッサァーハハハハハハ、ヒーッヒッヒ!」
オペレーターは、目に涙を浮かべて笑い転げながら、ものものしい発射ボタンを、何度もバンバンたたいた。
危険な帯の弾頭を付けたミサイルは、予めセットされていた方向へ正確に飛び立った。すなわち、大陸へ。
+ + + + +
「なにィ!?核攻撃だァ!?」
薄暗い司令室の中。
詰め襟の軍服を来た鷲鼻の男が、報告に来た部下に向かってわめいていた。
「おもしれェ、伊達や粋狂の共産圈じゃァない所を見せてやれィ!」
「わかりましたでありまァす!」
全国各地でボタンが押された。
+ + + + +
クレーターだらけになり、色はすっかり赤茶けて、いまや火星だか月だか判らなくなってしまった地球の横っちょを、一人の男が歩いている。純白のぞろっとした服に、長くたくわえられた、これまた白い髭。ゴツゴツした杖を持ち、頭には金の輪を乗せている。顔は赤く目はうつろで、左手には一升瓶を持っている。
どうやら彼は、酔狂で神様をやっている人らしい。