「隊長、ダメです! 戦車隊は全滅しました!」
若い隊員の悔しげな声に、8時間前に組織されたばかりの怪獣遊撃隊の隊長はゆっくりと振り向いた。
「モニターで見ていたよ。ひどいものだ。まったく歯が立たなかった。」
「一体、我々はどうしたらいいのでしょう!?」
若い隊員はやや取り乱しているようだった。無理もない。まさか巨大怪獣と戦うハメになるとは、昨日までは夢にも思っていなかっただろうから。
隊長にしてもそれは同じ事なのだが、隊員達の手前、そう簡単に取り乱して見せるわけには行かなかった。
「取り合えず戦闘機を出してみる。倒せる見込みは薄いが、いくらかの時間は稼げるだろう。その間になんとか対策を考えるんだ。」
「あの怪獣を倒す方法が果たしてあるでしょうか?」
「何とも言えんな。意見を聞くために生物学の専門家を呼んである。もうすぐ到着するだろう。」
「学者ですか?」
「そうイヤな顔をするな。あんな怪獣に一体どんな攻撃が有効なのか、我々には見当もつかないんだ。」
「そうですね・・・。」
戦闘機による攻撃もやはり怪獣には痛くもかゆくもないということが判り始めた頃、初老の生物学博士が怪獣遊撃隊本部基地に到着した。
隊長は待ちかねたとばかりに質問を浴びせた。
「あいつを倒す方法はありますか? そもそも、一体あの怪獣は何なのですか?」
博士は難しい顔をして答えた。
「そうですな・・・。はっきりとは断言できませんが、おそらくあれは古代の生物だと思われます。なんらかの理由で氷に閉じ込められたまま永い間眠り続け、それが先頃の群発地震のショックで目覚めたのでしょう。」
「あれが大昔に地球に棲んでいたというんですか? しかもこの近くに? それじゃあ、あいつが体中から熱気を発しているのはどういう訳です? おまけに、放射能火炎をはき散らすんですよ?」
「正確には、火炎ではなく熱波ですな。」
「そんなことはどうでもいいんです!!」
「これも断言は出来ませんが、あれは地球上の気温がもっとずっと高かった頃の生物なのでしょう。体温が、我々から見ると異常に高いということでしょうな。別に火炎をはく訳ではありませんよ。」
「そんなことはどうでもいいんですよ!!・・・で、結局、やつを倒すにはどうしたらいいんですか?」
「放っておきなさい」
「へ?」
「うっちゃっておくんです。今言ったように、あれはとても高い気温の中で生きる生物です。じきに寒さに耐えられずに凍死するでしょう。」
「まさか・・・。」
「まず間違いありません。今の地球上には、あれの生きられるようなところはどこにもないのです。」
怪獣は、奇怪な声で何やらうなっていた。
「くそっ・・・寒い・・・。一体ここはどこなんた? 昨日までいたヒマラヤとは全然地形が違うじゃないか。目が覚めたら雪の中だったってことは、雪崩にでものまれたのか? それにしても、さっきまでブンブン飛んでたハエみたいなのは何なんだ?・・・ううっ、寒い! みんなはどこに行っちまったんだ? 一体どうしちまったんだ!?」
怪獣の監視を続ける隊長は、ふと博士を振り返った。
「だいぶ弱って来たようです。・・・それにしても、ひどい格好だ。古代の地球にはとんでもない姿をした生物がいたもんですね。」
博士は感慨深気に腕を組んだ。
「まあ、たった2本の足で歩き、体のてっぺんにある大きな独立したコブに感覚器官らしきものや口などが集中してついているというのは、我々の常識からいくと、少々不気味ではありますな。」
「その上、目が二つもあって、口は単なる裂け目としか見えないんですよ? 『少々』なんていう生やさしいもんじゃありませんよ!」
「まあ、そういう見方もありますな。しかし、古代の地球にあの生物がウジャウジャといたことは、ほぼ確実なのです。言ってみれば、地球の先住者ですな。」
そう言うと博士は、もう一組の腕も感慨深気に組んだ。
「うーむ・・・。しかし、そうすると、あれの体が熱ばかりでなく放射線もおびているのはどういう訳なんです? 古代の地球は放射線だらけだったんですか?」
「いや、確かに地球の大地が多量の放射線をおびていた時期がありますが、それはあの生物が絶滅してからです。これは私一人の勝手な推測なんですが、あれが氷に閉じ込められる時、大量の放射線を浴びるような何かがあったのだと思います。ひょっとするとそれが、あの生物が絶滅する原因になったのかも知れませんな。」
「太陽でも落ちてきたって言うんですか? とても考えられませんね。・・・うっ、またあの声だ。あいつ、さっきから何度も空に向かって妙な声で吠えてる。一体何だというんでしょう?」
「さてね・・・。まあ、仲間を探しているのかも知れませんな。決して生き残っている筈のない仲間を・・・。」
怪獣は吠え続けた。
「ぉおーい! 山本ぉーっ! 中村ぁーっ! どこにいるんだぁーっ! 無事なら返事をしてくれぇーっ!! おーぃ・・・・・」