「『リング』は恐かったけれど、『らせん』はあまり恐くなくなって、なんだか難しくなった」という評判を、いくつか耳にした。「なんだそりゃ?」と思っていたが、読んでみて納得。『リング』は基本的にホラーだったが、『らせん』はホラー色が極端に薄れ、ほとんどハードSFになっちゃったというわけだった。…なんてことを言うと、ハードSFファンに怒られるかもしれない。もう少し正確に言うなら、「ハードSF風のサスペンスエンターテイメント」とでもなるかな。
どうやら本作は、既製のパターンを全て打ち破った画期的な小説というような評価を受けていたりもするようだが、私はそうは思わない。本作が打ち破ったのは「B級ホラーのパターン(セオリー)」であって、またそれはSFの(それも結構古い)パターンを取り入れることによって実現されているように見える。
本作で描かれている「最初は個人の冒険(あるいはサスペンス)物語として始まったものが、あれよあれよで結局人類の存亡を云々する話になってしまう」という図式は、かなり古くからあるSFにおける黄金パターンの一つだ。そして、その「人類の存亡云々」に遺伝子や生物の進化がかかわって来るというのは、80年代以降の流行でもある。全く目新しいことではないのだ。
というわけで、本作の後には三部作完結巻である『ループ』が控えている。『ループ』は現在まだ新刊書籍のベストセラーランキングに入っているし、当分は文庫化されないのではないかと思う。私はハードカバーの本が嫌いだが、今は早く『ループ』を読みたい気分になっているので、どうしたものかかなり迷っている。早く読みたいというのは『リング』と『らせん』が面白かったからということももちろんあるが、かなり時間が経ってから、文庫化された『ループ』を読むにあたって前二作を読み返すという程入れ込みたくはないので、前二作の内容と印象をよく覚えているうちに読みたいと思うのだ。しかし一方では、わざわざハードカバーを買う程のものではない、というようにも思えている。ただ、どちらにしても、早く『ループ』を読んでみたいという気持ちに偽りはない。私にとって『リング』から『らせん』への流れは、B級ホラーのパターンを気持ちよく打ち破ってくれた、ハードSFの風味も香る優れたエンターテイメント小説だったのだから。